未確認で進行形で備忘録

映画とかアニメとかについて書きます 連絡先⇒ twdkr529@yahoo.co.jp

コバヤシオサム監督の『NARUTO疾風伝』が凄かった

 見慣れた風景や何処にでもありそうな景色を映しているのに、そこに全く知らない空気や風が流れているのを見ると、途端にそこに「映画」を感じる。黒沢清の映画もそういう楽しみが何処かにある。同じように、普段TVシリーズで見ていた風景やキャラクターたちが映画のスクリーンで別様の時間と空間のなかで息づくのを見ると、そこでもまた「映画」を感じる。細田守デジモン二作や山内重保の『黄金のデジメンタル』、または『ディアボロモンの逆襲』もそういう「映画感」があった。
 NARUTOで言うなら『雪姫忍法帖』や『THE LAST』などがそれに当たる。
 例えば『THE LAST』では小林常夫さんという普段のTVシリーズにはあまり参加していなかった監督が、すでに完成された世界観を舞台に映画を作る。その時、別の角度で切り取られたいつもの風景、知らない空気をそこに感じることが出来る。木の葉の里のBGオンリー、スクリーンの大半を占める夏の空、セミの声。この平凡なようで意外と見たことのなかったアバンのカット一つだけで、「映画」を見ている感じがした。
 それと同じような感慨を、『NARUTO疾風伝』新シリーズ第一話を見て抱いた。
 699話でTVシリーズを14年間監督した伊達勇登さんは一旦NARUTOから引退(本当にお疲れ様でした)、コバヤシオサムさんが新シリーズの監督に就任した。今後は小説の内容をアニメ化する様子。そんなコバヤシオサムさんの『NARUTO』アニメが素晴らしいのだ。
 第一話「NARUTO/HINATA」はナルトとヒナタ・ネジの幼少期をそれぞれAパート、Bパートを使って描いている。
 家族もおらず、周囲から疎まれているナルトが、独りぼっちで四代目の顔岩のうえに座り、秋空を眺めている。この、一瞬で「秋空」だとわかる空気の演出が際立っている。高くにある大きな雲と、吹き寄せる風の音響。
 劇伴は最小限に抑えられ、それにより里の生活音がクリアに響く。そして同時にナルトへの誹謗もはっきりと聞こえる。整えられた音響演出が鋭利に伝える幼き日のナルトの孤独。刺すような残酷さを感じさせるその澄んだ演出は、後半の三代目の爺ちゃんとナルトの会話の暖かさを、その温度ごと伝えてくれもする。ヒナタの孤独を描くBパートでもそれは同じだ。無音の雪景色のなかで佇むヒナタのカットが忘れられない。
 コバヤシオサムさんの空気が見慣れた風景を包むこの新シリーズは、『THE LAST』を見た時のような「映画感」を与え続けてくれそうで、今後の『NARUTO疾風伝』が更に楽しみになってくる。

 

 あ、前回に続いて西尾鉄也作監のOPも最高でした。伊藤秀次エフェクトの千鳥もイカす。